梅雨空の紫陽花
曲がり角の店でかえてきた
一枚きりのコインは雨に濡れてる
もう二度と廻さないと決めた
最後のダイヤル 静かにたぐりよせる
雨色に染まった黄昏の
街の向こうにかすんで見える列車で
今夜 この街を離れると
あの人に最后の電話入れるつもり
心変わりだけじゃないと
分かってるから 何も言わない
ただ “さよなら”と
季節の変わり目に咲くはずの
あじさいが開かぬままに
雨に打たれて
横断歩道に鮮やかな傘の波が
さざめきながら 揺れている
人波と一緒に想い出が流れてく
ダイヤル廻す指が震える
受話器の向こう側であの人は
雨の日の空の色をなぞりながら
もう二度と描けないと知った
二人の季節をも一度だけ見つめる
クラクションに消えた雨の音
数え尽くした想いも夢も呑み込む
そして告げるさよならの声に
お互いの優しさこめて それが終わり
にじむ受話器握りしめて
時の流れはスローモーション
今 音を立て
激しくなった雨には誰も
今はもう何も言わずに
通り過ぎてく
たそがれる街に水色の雨の糸が
悲しい程に 降り注ぐ
さりげないざわめき 耳にして立ちすくむ
冷たい指で受話器を戻す
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