前夜



真夜中突然目が覚めて
頭ではまだ昨日になりきらない今日の
「水着を洗わなければ」

体はふとんの中でサナギになっているというのに
こうなると
矢も盾もたまらない
半身幼虫のままはいだして
お風呂場でじゃぶじゃぶやっている
半身の幼虫は苦しい
あしたは成虫になる日かもしれないのに

それでも

水着を洗わなければ
永遠にあしたはやってこない気がして
丹念に丹念に
カルキを洗い流している

こんな中途半端な時間に
中途半端かどうかも分からないことに
めまいを覚えながら

かたかた脱水機の底に
へばりついた水着とぼうしと髪どめゴムを
苦労してひろいあつめ
干し終えてほっとする
 よるのかぜ
 ほしのうみ
 ああ まだ大丈夫だったんだ

船を降りて
もう一度最初からサナギをすることになるが
中途半端な時間のおかげで
あしたがくることだけは
間違いなさそうだから



1996


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