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斜陽


午後遅く、
真新しい日傘を開き、歩きはじめました。
涼しいものを選び損ねた日傘、
蝉時雨すら、除けきれない傘だけれど、
それでも、
ないよりはずいぶんましな午後でした。

画材屋をのぞいた後、
川べりのベンチに腰を下ろして、
かばんのすみに立ててあった文庫本を取り出して、
首と肩に日傘を預け、
何とはなしに読みはじめました。
それは短編集で、
少し可笑しく、少し悲しく、
少し歪んでいるのでした。
いくつも道が開けるようで、
とばしとばし、いくつか読みました。

いつか風が優しく強くなり、
飛んでいきそうな日傘を膝にたたみました。
そして、
まだまぶしい空と太陽に、
片身をねじり、背を向けて、
さらさらと読みふけりました。

本をたたんで立ち上がる頃には
日傘はもう要りませんでした。
あんなに強く熱く悲しかった太陽も、
落日と名を変え
ただ西を向いて、傾くばかりでした。