入梅前 母が植えた日日草をくぐって 静かに季節を開こうとするものがある 母が仕掛けていった 最後の夏を彩る花火 充填された火薬が花開くのを 手助けしようとするものがある ポーチに腰かけて ぼんやり泥だらけの母の手を見ていた あの日すでに それは母の手の中に潜んで わたしを見ていた 雨を連れてくる風 風の運んだ水分 入梅の気配の中で足踏みをしている 背中を誰かが押した 母が植えた日日草を 伝いはじめた雨の粒 開きかけた新しい季節に 着火するのはわたし それを待つ何者かが目を細めて わたしをじっと見ている 入梅の少し前 |