はるのかぜ 書棚の隅っこに眠る ぼろぼろのノオトを見つけた 黄ばんだプリント・授業予定・授業記録 そしてたくさんの名前・名前・名前 ぎっしりの文字が こぼれおちそうに重たくて 所在無げな表情をしていたのは 生徒よりもむしろ わたし 歩きはじめた あの春の日 遠く電車に揺られた道のり 教壇 立場 どこまでもひとりだったあの日 ぱたりノオトを閉じれば ままと指差す幼子ふたり へんしんごっこに興じる笑顔の向こう 春の夕暮れの風は 今日もやさしく あの日の生徒たちの顔はもう すっかり思い出せないのに あの空 あの朝 あの夕暮れ 幾度の春を数えたことも素知らぬ顔で 同じ春の風 ゆらり ふわり 幼子たちの背中から わたしへと 遠い夕暮れ 今日の夕暮れ 捨てられぬ授業ノオトをひっそりと 書棚の同じ場所に収め わたしも素知らぬ顔をしてあの日を歩く 生きる道のりは遠いようで 近いようで 離れたかと思えばついと交わる そんなもの 同じ春の風 ゆらり ふわり |