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十年前の夏



押し寄せる光の波に怯えていた
怯えながら指先で恐る恐る捉えては
編んだりねじったり
どうにも明るくはならなかった
うわごとのような なつのひかりだった

流行り歌がつきささったまま抜けなくなった
やがて深く沈着していき見えなくなった
うずくまってその傷口を見ていたが
時間に浸食され 崩れた傷口を
もとどおりに塞ぐことはできなかった

詩を書こうにも
弾け飛んだ言葉の切れ端を
つかまえることができなかった
手を伸ばしたからとて
かたちを失ったそれを手に出来るはずもなく
つかんでもつかんでも空っぽのてのひらに
ため息とも涙ともつかない湿り気ばかり落とした
またはひび割れた季節のかけら

思いきり力をこめてみたり
すべてを投げ出してみたり
上を向いたり 下を向いたり
背伸びをしたり 逆立ちしたり
ありとあらゆるかたちがすべて
揺るがぬ事実の前で無力でしかなかった
ただその前でうずくまるしかなかった

そんな夏を忘れられず生きた
寒い夏だったのか
そんな当たり前のことは記憶になく
遠ざかる月日に告げられて知る
この夏がとてもよく似ているらしいこと
ニュースが繰り返し語る 十年前の夏