あと(あ)がき




 昨年、桜のお話を書こうとして、桜に間に合わなかったのです。
 ほとんど、アウトラインができていたのに、ラストを書きこむことができないうちに、桜が散ってしまったのでした。
 ああ、そして結局、今年も…。

 このお話の舞台になっている、スーパー横の桜の沿道は、我が家から数キロ西へ出たところにあります。歩くのが趣味だった頃には、運動と称して歩いていっていましたが、今では子どもふたり自転車に積んで、そちら方面に出た時にしか、寄らなくなってしまいました。
 まだ子どもがいなかった頃、生まれて初めてふるさとを離れ、知らない土地で、なんだかものすごい孤独感を抱えて、それでもそれを、心のどこかで楽しんでもいたのでしょうか。
あの頃の、某かの不安を抱えた心は、あの桜並木の沿道を訪れるたび、胸によみがえるのです。ただひとりでふわりふわりと、夕暮れの桜を見上げて歩いたあの日々が、この物語を生んだような気がします。
 子どもが生まれる前に見えていたもの、子どもをもってから見えたもの。
 それらを重ねたくとも弾き合い、今もきれいさっぱりと受け容れられているわけではないのだけれど。
 そんな葛藤もふくめ、このお話を書きました。書きながら、違う、と思うところもあるし、これでよし、というところもあります。
 なにはともあれ、ラストの回を書いていて、私は泣きそうになりました。
 それが、この物語の真実だと思っています。



                      2004年5月27日  草野あずみ





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