あと(あ)がき




心ない、深夜のいたずら電話から始まった話は、これでおしまいです。

周りなんて何も見えなかった二十歳の頃、
私は本当に幸福な大学時代を過ごしました。
いわゆる古いお嬢さん学校で
(私にはそんな認識はあまりなかったけれど)、
のんびりとした校風の学校でした。
その外側にある何ものにも侵されない、
あたたかな日だまりの中で、
私たちは日々精一杯生きていた。
あの中では、私たちは王様だった。
自分にとって、またあの頃の仲間たちにとって、
大切なあの懐かしい時間を、
てのひらに広げてながめてみたくなりました。
おそらく私の心で、永遠に生き続けるであろうあの時代を、
自分なりに整理してみたくなりました。
この話は、王様の心を取り戻す物語です。
良くも悪くも、学校を出てからもみくちゃになってよれよれになって、
それでもまだ何かを諦めきれずにいるかつての王様が、
一番大切なものは何だったのか、
もう一度考えるチャンスを手に入れる、そういう話です。
遠のく程にいとおしい記憶と、日々迷い悩みながら、
懸命に生きている現在が交錯する、
そういう物語を書きたかった。

図書館の情報をこまごまと寄せてくれた
松村良子さん(旧姓森川さん)、心から感謝いたします。
相も変わらずあなたは私の神様でありました。
そして、極めて私的な、つたないこの物語を
最後まで読んでくださったみなさん、
ありがとうございました。

 この物語を、あの六年間、共に過ごしたすべての人々と、あの日の自分に、捧げます。



                        1997年5月20日   草野 あずみ



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